農PO* (のうピーオー)フィルム
北海道農業研究センター 気象資源評価研究室
濱嵜 孝弘
骨組みが金属パイプでできている簡易な栽培温室を指して「ビニールハウス」と呼ぶ人は多いのではないだろうか。正式名称は「パイプハウス」であるが,従来,日本ではその被覆に農業用ビニルフィルムフィルムが多く使われてきたため「ビニールハウス」と呼ばれるようになったのだろう。しかし最近,被覆資材が農ビから「農PO(ピーオー)」と呼ばれるポリオレフィン系特殊フィルムへと急速に入れ代わりつつある。その大きな理由の一つとして塩化ビニル(PVC)の環境負荷問題があげられる。PVCは塩素を含むため不適切な条件で焼却するとダイオキシン類を発生する。またPVCそのものは硬いため,「可塑(かそ)剤」を4割程度混入してしなやかなフィルムにしているが,この可塑剤の主成分であるフタル酸エステル類は内分泌撹乱物質(いわゆる「環境ホルモン」)である可能性が指摘されている。そのため,塩素や可塑剤を含まないPO系のフィルムが利用されるようになってきた。
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ポリオレフィン(Poly
Olefin)とは,一般式CnH2nで表される不飽和炭化水素の中で,分子の末端に二重結合を持つα-オレフィン(例えばエチレンやプロピレンなど)の単独重合体,または共重合体の総称である。そのため,単に「ポリオレフィン系フィルム」と言うと,従来農業用フィルムとして利用されてきた「農ポリ(ポリエチレン:PE)」と「農サクビ(エチレン-酢酸ビニル共重合体:EVA)」も含んでしまう。しかし,現在「POフィルム」もしくは「農PO」と言った場合には,PEとEVAを積層(ラミネート)し,保温性その他の性能を改善した農業用ポリオレフィン系特殊フィルムを指す。
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このPOフィルムの特性を農ビと比較すると,利点として
- 可塑剤を含まないため,べと付かない(汚れにくい。折り畳んだり巻いても張り付かない)
- 軽い(密度が農ビの約2/3)
- 強度が高く,裂けにくく,伸縮が小さい(バンドレスで張れ(図),風に強い)
- 低温でも柔軟性があまりかわらない(寒冷地に向く。農ビは低温で硬く,脆くなる)
が挙げられる。

図.農PO資材を被覆したパイプハウス。
バンドは側窓部のみで,屋根面はバンドレス
一方,農ビに比べて防曇剤を添加しても安定せず,展張後フィルムの物理強度が低下する以前に防曇性を失ってしまうという欠点があり,その対策として防曇剤を表面処理(コーティング)する方法が取られている。また,保温強化材(ケイ酸を主体とした無機化合物)が混入されているので透明性が若干低く,そのため光透過率も低いと誤解され,農家に敬遠されることがある。実際には透明性と光透過率とに関係はなく(例えば,すりガラスの透明性はサングラスより低いが,光透過率は逆),見た目による一種の「錯覚」で,光透過率は農ビと変わらない。なお,最近では使用するポリエチレンに,メタロセン触媒を使って生成した「メタロセンPE」を用いたフィルムが登場し,強度と透明性が向上している。
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もう一つ重要な特性として保温性がある。農ポリや農サクビは農ビに比べて長波放射透過率が圧倒的に高く,保温性に欠けることが問題とされてきた。その対策として農POフィルムでは上述の保温強化材を素材に混入している。現在市販されている農POフィルムは,農ポリなみに保温性の低いものから,一般の農ビより保温性が高いものまでバリエーションに富んでいる(表)。このバリエーションを活かし,例えば低温時の生育促進が目的であれば保温性の高いものを選び,夏場の雨よけ中心だと保温性の低いものを選ぶなど,目的に適した資材を選択することができる。とは言え,肉眼では長波放射透過率の高低は判らない。農PO業界では保温性の程度を示す指標を設け各商品に表示することを検討しているとのことなので,導入されれば資材選びが容易になるだろう。
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表.様々な農PO資材と代表的な農ビ,農ポリの放射特性
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資材名 |
長波放射透過率
(%) |
日射透過率
(%) |
| A |
27 |
88 |
| B |
37 |
90 |
| 農PO C |
59 |
90 |
| D |
62 |
90 |
| E |
74 |
89 |
| 農 ビ |
32 |
89 |
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農ポリ |
78 |
未測定(他と同程度) |
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長波放射の反射率はいずれの資材も10%前後 |
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なお,農POは燃やしてもダイオキシン類を発生しないが,現在では野焼き・小型焼却炉による焼却そのものが禁じられている。使用済み農POは回収され,主としてサーマルリサイクル(燃料として利用)される。
(「北海道の農業気象」第53号p34-35を修正・加筆)
(北海道農業研究センター 気象資源評価研究室 濱嵜
孝弘)
* 註) 「農PO」および「農POフィルム」は昭和パックス(株)他5社の登録商標です。
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