温室効果(greenhouse effect)
福岡国際大学
倉 直
19世紀後半には物理学者のあいだで大いに議論された問題であった。すなわち,温室(ガラス室)のガラスは波長約3μmまでの放射はかなりよく透過するが,これ以上の波長の放射はほとんど透過しない。したがって,太陽放射はよく透過するが,それがいったん,温室内の植物や地面に吸収されて温度放射として再放射されると,その波長はほとんどが3μm以上なのでガラスを透過できない。入った放射がほとんど出られないところから,これはまた,ねずみ取り理論(mousetrap
theory)ともいわれる。すなわち,これが温室内のほうが外より温度が高くなる理由とされてきた。
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このような温室はちょうど大気に囲まれた地球に似ている。地球を取り巻く大気には水蒸気や炭酸ガスなどが含まれており,その放射特性はガラスと同じと考えられる。すなわち,日射のような短波放射は透過するけれども,長波の温度放射は透過しない。これも温室効果と呼ばれ,地球が暖かい理由にされてきたし,これらの濃度が増加することで,地球の温暖化が進むことの理由にもされてきた。もちろん,エネルギーは放射だけでなく,対流でも伝わるし,大気からの再放射により大気外へ放出されるので,あるバランス状態にあることはまちがいない。
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図1は地球全体での1年間のエネルギー収支を示したものである。すべてのエネルギーの源は太陽である。今太陽から大気で包まれている地球へ到達するエネルギーを100とする。そのうち,33は直達日射として大気へ進入し,そのうち,24が地表に到達するが,9は大気に吸収される。100のうち15が直接散乱日射として,大気へ進入するが,9が反射され,6のみが地表に到達する。一方,雲などで散乱された日射は52が大気へ進入するが,25は大気外へ反射され,10が大気に吸収され,17が地表に達する。したがって,24,6,17の合計47が正味,地表へ到達する。このようにして得られたエネルギーのうち,14が長波放射として,23が潜熱として,10が顕熱として地表から失われる。これで地表のエネルギー収支は0となる。

図1 太陽からのエネルギーを100としたときの地球の
エネルギー収支(年平均)(Gates,1962)
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地表は長波放射で119のエネルギーを放出するが,そのうち,10だけが大気外へ放出され,109が大気に吸収され,そのうちに105が地表に再放射され,残りの4だけが大気に吸収される。地表での潜熱と顕熱交換は地表と大気とのエネルギー交換であるから,大気の得るエネルギーの合計は,太陽放射の分の10と9,長波放射の4,さらに潜熱と顕熱の23と10とで56となり,これは大気自身から長波放射として,地球外へ逃げる。したがって,大気外へ逃げる量はこの56と地表から直接の分10を加えたものが長波放射分であり,短波放射として反射される25と9と合わせると,逃げる量も100となる。これが年間を通しての地球のエネルギー収支である。
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さて,温室の場合はどうであろうか。1909年に英国の物理学者Wood
がガラスと,長波長の放射も透過する石英で温室を作り,実験した。その結果温室内の気温はほとんど差がなかった。これで,ねずみ取り理論は温室に適用できなくなった。さらに,Wood
は温室内の気温が外より高いのは,温室の外では空気が自由に流れ,熱が上空に逃げるが,温室ではガラスなどの被覆物で温室が囲まれており,中の空気がよどんでいるため,熱が逃げられないと推定した。これ以上の研究はその後,かなりなかったが,1963年オランダの研究者Businger
が温室のエネルギー収支を計算した。定常状態(すべての条件,たとえば日射量などが時間ともに変化せず,一定である)を仮定しての計算であるので,これは代表値としかいえないが,温室内気温の上昇分の内,温室効果と呼ばれる放射収支の分は約20%で,残りの80%は被覆物が対流伝熱を遮っていることによることを証明した。
したがって,彼は地球の場合は,温室効果というべきでなく,むしろ大気効果
(atmospheric
effect)と呼ぶべきであると主張したけれども,あまりにも有名になった温室効果の使用に歯止めがかからないのが,現状である(倉,
2003)。
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図2は温室の非線形モデル(Takakura and Fang,
2002)を用いて,温室効果に関係する2要因,射出率と換気量の影響をわかりやすく,ガラスとポリエチレンという代表的な被覆材についてシミュレーションした結果である。射出率のちがいより換気量のちがいの影響が大きいことがはっきりとわかる。すなわち,換気量が大きいといずれの場合も内気温の最大値は外気温の最大値(20℃)とほとんど同じになるが,射出率の差は最高気温に関してはわずかであり,しかも射出率が小さいほうが若干温度が高くなっている。このように温室と地球では温度の高まるメカニズムは異なる。

図2.射出率と換気量のちがいが温室最高温度に及ぼす影響(Takakura,
2000).
(福岡国際大学 倉 直)
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【 引用・参考文献 】
Businger, J. A., 1963: The glasshouse climate. In
Physics of Plant Environment. Ed. by van Wijk), North-Holland Publ.
CO. , 277-318.
Takakura, T., 2000: Physics of the greenhouse
environment. Proc. 15th International Congress: Plastics in
Agriculture, 218-222.
Takakura, T. and Fang, W., 2002: Climate Under
Cover (2nd edition). Kluwer Academic Publ., 190pp.
高倉 直:植物の生長と環境 - 新しい視点と環境調節の課題 - 農文協,194pp, 2003.7
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